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2011年2月23日水曜日

大人になること

                     いわさきちひろ


人にはよく若かったときのことを、とくに女の人は娘ざかりの美しかったころのことを何にもましていい時であったように語ります。
けれども私は自分をふりかえってみて、娘時代がよかったとはどうしても思えないのです。
とはいってもなにも私が特別不幸な娘時代を送っていたというわけではありません。
戦争時代のことは別として、私は一見、しあわせそうな普通の暮しをしていました。
好きな絵を習ったり、音楽をたのしんだり、スポーツをやったりしてよく遊んでいました。
けれど生活をささえている両親の苦労はさほどわからず、なんでも単純に考え、簡単に処理し、人に失礼をしても気付かず、なにごとにも付和雷同していました。
思えばなさけなくもあさはかな若き日々でありました。
ですから私の好きなももいろの洋服が似あったとしても、リボンのきれいなボンネットの帽子をかわいくかぶれたとしても、そんなころの私にはもどりたくはないのです。
ましてあのころの、あの下手な絵しか描けない自分にもどってしまったとしたら、これはまさに自殺ものです。
もちろんいまの私がりっぱになってしまっているといっているのではありません。
だけどあのころよりはましになっていると思っています。
そのまだましになったというようになるまで、私は二十年以上も地味な苦労をしたのです。
失敗をかさね、冷汗をかいて、少しずつ、少しずつものがわかりかけてきているのです。
なんで昔にもどれましょう。
少年老いやすく学成りがたしとか。老いても学は成らないのかもしれません。
でも自分のやりかけた仕事を一歩ずつたゆみなく進んでいくのが、不思議なことだけれどこの世の生き甲斐なのです。
若かったころ、たのしく遊んでいながら、ふと空しさが風のように心をよぎっていくことがありました。親からちゃんと愛されているのに、親たちの小さな欠点が見えてゆるせなかったこともありました。
いまちょうど逆の立場にたって、私の若いときによく似た欠点だらけの息子を愛し、めんどうな夫がたいせつで、半身不随の病気の母にできるだけのことをしたいのです。
これはきっと私が自分の力でこの世をわたっていく大人になったせいだと思うのです。
大人というものはどんなに苦労が多くても、自分のほうから人を愛していける人間になることなんだと思います。


*今日選んだ『People』という曲と不可分の文のため、掲載することにしました。部分的な引用では不充分と感じ、全文としました。

People


中学生時代に名画座で『ファニーガール』を観た時には、‘どうして?人を必要とする人が一番ラッキーなどという事があろうか?’と感じたものです。美しいメロディと共に、自分のどこかにひっかかっていた詞の意味を理解し始めたのは、ずいぶん経ってからのこと。欠点だらけの自分を痛く知り、自分以外の人の不充分さを受け容れられるようになった事や一つ一つの行為に代償を求めなくなってきた事に、深く感謝できるようになってからです。


【曲紹介】
◯作詞:Bob Merrill、作曲:Jule Styne。曲をつくるために雇われた二人が初めて会い、フロリダのPalm Beach で共同作業。「いいメロディが浮かんだ」というStyne が演奏し始めると、Merrillに詞が浮かんできて、およそ30分でつくられたという逸話が伝えられている。


◯ミュージカル『Funny Girl』の劇中歌(1964) でバーブラ・ストライサンドBarbra Streisandが歌唱。


◯エラ・フィッツジェラルドをはじめ、さまざまな歌手がカヴァーしている。


【歌詞】
People,
People who need people,
Are the luckiest people in the world
We're children, needing other children
And yet letting a grownup pride
Hide all the need inside
Acting more like children than children
人は、人を求めている
そういう人が世界で一番幸運な人たち
人はみんな子ども
他の子を必要としている
だけど大人のプライドが邪魔をして
してほしい事を内側に隠したまま
子ども以上に子どもっぽい行動に出てしまう


Lovers are very special people
They're the luckiest people in the world
With one person one very special person
A feeling deep in your soul
Says you were half now you're whole
No more hunger and thirst
But first be a person who needs people
People who need people
Are the luckiest people in the world
恋人たちはとびきり特別な人たち
世界で一番幸運な人たち
とても特別なたった一人の人と一緒にいる
魂の奥にある感情が言う
あなたは半分だったけど、
やっと(半分と合って)ひとつになれた
もう飢えることも渇くこともないって
でもまず、自分から人を求めていかれる人になることよ
人を必要とする人
そういう人が世界で一番幸運なのだから


A feeling deep in your soul
Says you were half now you're whole
No more hunger and thirst
But first be a person who needs people
People who need people
Are the luckiest people in the world
魂の奥にある感情が言う
あなたは半分だったけど、
やっとひとつになれた
もう飢えることも渇くこともない
まず、自分から人を求めていかれる人になることよ
人を必要とする人
そういう人が世界で一番幸運なのだから

*この歌を理解できるようになったきっかけとなった、いわさきちひろさんの『大人になること』を合わせて、投稿する事にしました。